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短編SS「輝きは星を超えて」

なんかコスモが迸りそうなタイトルになってますが、一応スバティアです。

話としてはクリスマスの話になります(イブではなく)。

ちょっとシリアス路線です。


内容は続きからー。
「眠い……」



執務官の仕事を始めてからというもの、ここ最近ろくな休みも取れず。

ベッドに突っ伏している私、ティアナ・ランスターは未だ制服のまま。



「(脱ぐのも面倒くさい……)」



正直こんなに執務官という仕事が疲れるとは思わなかった。

確かに、私はまだ執務官に成り立てのほやほやではあるけれども。



それでも執務官の補佐だって今までやって来たんだ。

新米とベテランでここまで仕事の速度に差が開くものなのか?



過去に自分が仕えていた上司の事。

フェイト・T・ハラオウンのことを思い浮かべて、一人ごちる。



自分が目にしていた範囲では、彼女はそんなに仕事が飛びぬけて早いわけではなかったように思う。

だけど、私が改めて彼女と同じ立場に立った時、こんなに苦労しているということは。



つまりは彼女は人知れず、人一倍努力していたということなのだろう。

他人に苦労している素振りを見せないのは彼女らしい、人に気を使わせない配慮だったのだろうか。



「私はそんな余裕、無いなぁ……」



そういえば今日、私が辞書のような分厚い本を何冊も抱えて廊下を歩いていた時。

向かい側から廊下を笑顔で駆け抜けるフェイトさんが居たような……それもスキップで。



「どれだけハイスペックなのよ、あの人は……」



私にはそんな芸当とても出来ない。

生まれながらに凡人の私は、コツコツ一つずつこなしていくしかないんだ。



「無いものねだりなんて、出来ないしね……よいしょっ!」



何とか一念発起、起き上がってシャワーだけでも浴びておこうと思った。

明日はまた忙しくなるし…………あ。



「そうか、それで今日はフェイトさんが早上がりだったんだ……」



今日は確か、フェイトさんとなのはさんの世界では恋人同士で一緒に過ごす日だったはず。

名前は……そう、クリスマスイブ。



「それはフェイトさんも張り切るわけだわ……」



あの人のなのはさん好きは尋常ではない。

常軌を逸していると言ってもいい。



そんなあの人が、こんな大事なイベントを逃すはずがない。

きっと今頃二人は……。



「……考えるの、止めよ……」



まあ、私にはそんな一緒に過ごす恋人なんて居ないし?

寂しいだなんて――無いといったら嘘だけど――今は仕事が大事。



「…………む?」



で、何でそこであんたの顔が出てくるのよ。

あんただって、今はレスキューで忙しいんでしょうが。



私の頭の中に、過去にパートナーだった娘の笑顔が過ぎっていく。

あの時もこの時も笑顔、笑顔、笑顔……ああもう、あんたはまたそんなにへらへら笑って!!



シャワーのコックを捻る。

まだ湯沸しがちゃんと働いていないシャワーから出てくるのは冷水。



それでも構わなかった。

私は頭からそれを被って、雑念を振り払うようにそいつの顔を消そうとした。



結局そいつは、枕元までついてきたけれど。



「……バカスバル」



あんたの笑顔のせいで、私はこんなところまで来れた。

きっと一人では成し遂げられなかった。



「ばか……」



私は愚痴りながら、眠りに落ちる。

夢に出たら、一発殴らせなさい…………。







――夜空に青い光が疾る。

    後から響く、どこか聴き慣れた心地よい駆動音――






二個目の目覚ましで目を覚ます。

余程深く眠ってしまっていたのだろうか。



起きるのと同時に伸び上がる。

ぐいっと背伸びして、くあっと欠伸を一つ。



働かない頭で朝食を考える。

今日はトーストとハムエッグ、それにサラダと……。



「…………え?」



その時、テーブルの上に見慣れない封書が。

封筒には『Dear. ティア』と書かれている。



問題はその文字だ。

この独特の文字は、間違いなく。



「あいつが、来たんだ……」



その時の私の表情は、いったいどんなものだったのだろう。

怒った顔? 困った顔? ……笑顔なんて浮かべてやるもんか。



確かにあいつには合鍵を渡してあったけれど。

どうせ来るなら一声掛けてほしいものだ。



「で、これは何なのよ?」



ペーパーカッターでささっと中を空け、出てきた物は。



「……写真?」



写っているのは、私とあいつ――スバル・ナカジマ。

笑顔で抱きついてキスをせがんでくるスバルを、私が手で制している写真だ。



「なんでこんな写真……」



この写真を撮ったのは、私がまだ機動六課に所属していた時のこと。

髪型がツインテールなのが、その証拠だ。



「それで、この写真をどうしろってのよ」



今更こんな写真を持ってこられても、あれから大分経つってのに……。

私が呆れて写真を裏返すと。



「え……?」



メッセージが寄せられていた。

スバルの文字で、大きくマジックで。



“いつも諦めない努力家のティアへ 私から愛を込めて スバル”



「……だからそういうのは直接口で言いなさいよ、ばか」



不覚だ。

不覚にも私はこのメッセージを『嬉しい』と、そう思ってしまっている。



笑顔になってしまっている。

あるいは写真に涙さえこぼしてしまいそうになっている。



そういえば、クリスマスイブの翌日。

サンタクロースという人がプレゼントを配ると、そういう話では無かったか?



「……まあ、あんたにしてはいいチョイスだったわよ?」



憎まれ口を叩いてみる。

決まらない。



だったらここは素直にこう言うしかないのか?

悔しいけれど、口元に笑顔を浮かべて。



「……ありがとうね、スバル」



私はあんたに負けないくらい、努力してみせる。

次に会った時に胸を張って誇れる私であるように。



仕事が終わったら、写真を入れる額を買ってこよう。

今日の私は、昨日の私より足取りが軽かった。
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